・ゲーム開発はすべての要素をバランスよく作ること。
ゲーム開発のスタートは、まず企画書です。企画書の中には、どんなコンセプトで、どんなジャンルなのかといった簡単なゲームの中身や発売する時期、価格などのマーケティングプランなどが書かれています。
そしてそのプロジェクトがどのくらい利益を出せそうなのかを検討した上で、開発がスタートします。しかし、開発も制作チームによってスタイルが異なります。
簡単に流れをいいますと、仮にフィールドと何体かのキャラクターを作るとします。アクションゲームだったら、剣を振らせてみたり、必殺技の動きをさせてみたり、システムを確認したり、試作を繰り返しながら全体の輪郭を少しずつ作っていきます。
開発の中で重要なのは、バランスよく作っていくことだと思っています。どうしても、作っていく中で熱中してしまって、ほかの部分が出来上がっていないのに、一部分だけを異常にこだわって作ってしまうことがありますが、そうしてしまうと完成したものが歪なものになってしまいます。
そういったものはプレイヤーもストレスを感じてしまうので、やはりすべての要素をバランスよく作っていったものが一番面白いゲームになります。ですので、そうなるようにスタッフを導いていくことを意識しています。
ゲーム開発は「最後まで完成させること」がまず一番難しいです。私もゲーム業界は長くなってきましたが、完成させられなかったゲームを周囲で多く見てきました。とくに近年はゲームが複雑になってきていて、それぞれに意思を持った何十人ものスタッフがチームになりますので、それぞれがバラバラにものを作るとやはり歪なものができあがってしまいます。だからこそプロデューサーやディレクターといった全体を見て、指示を出してまとめる人間が重要になります。
そしてバランス調整やデバッグをしてゲームは完成します。やはり自分たちで作ったものが評価されたり、売れたりすればチームとしていい流れになっていくので、そういった成功体験をなるべくチームで持てるようにプロデューサーとして動くことを意識しています。
・『閃乱カグラ』はインパクトとプロのスキルで生み出された。
私はゲームプランナーとして業界に入ったので、オリジナルのタイトルをたくさん作りたいというのが私の中では絶対的な目標です。それで『勇者30』を手がけて、おかげさまで目標以上に売れたんですが、もっと展開が広がってほしいなと思ったんです。
その後『一騎当千』というメディアミックス作品のゲームの4作目を検討していたとき、ニンテンドー3DSの情報を、任天堂さんからもらって、それには3D立体視の機能があるということで、これはなにか面白いものに使えそうだな、と。オリジナル作品でどんなことをすれば興味を持ってもらえるか考えた結果、立体視でおっぱいが飛び出したら十分フックになるのではないかと考えたんです。
当時美少女モノのゲームというとPSPに集中していて、ニンテンドーDSやニンテンドー3DSにはほとんどなかったので、そういったところでも目立つだろうと思って、こんなチャンスは滅多にないし、その瞬間に賭けてみようと。単純にオリジナルタイトルを立ち上げても、気づかれずに消えていくことがほとんどなんです。
もちろん、当時私と同じようなアイデアを持った人は業界内に何人かいたと思います。そこで、「誰よりも早くゲームを完成させる」こともプロの技だと思っているので、そういったインパクトのあるネタとプロとしてのスキルの合わせ技で、『閃乱カグラ』シリーズはできあがりました。
こうしてできた『閃乱カグラ』はわかりやすさや目立つ要素を制作段階で確保できましたが、完成した作品を宣伝する上で、記憶に残る宣伝ができるかどうかも重要です。
実は『一騎当千』のころからやってたのですが、ジャンル名を単純にアクションとするのではなく、「爆乳ハイパーバトル」としたり、自分自身の肩書きも「爆乳P」としたり、思わずつっこまざるをえないようなインパクトのあるものにして、記憶に残るように宣伝活動を行っています。
「爆乳P」に関しては、ブログで書いたことがきっかけなんですが、その場のノリというか、ちょっとテンションがおかしかったというか、まあ面白いだろうくらいの気持ちで書いたところ、10年くらい言い続けていたら定着しました。今ではいろいろなメディアさんが私のことを「爆乳P」と紹介してくれたり、「爆乳P」といえば『閃乱カグラ』を作っている高木だ、と言われるようになりました。
よく普段からテンション高めな言動をしているように勘違いされますが、基本的には真面目です。絶対うまくいくという段階までもっていけるように、常にロジカルに考えています。目立って、なおかつ記憶に残していかなくてはいけないというのはすべてにおいて思っているところです。
とはいえ、業界に入ったときからそういった意識だったかというとそうでもなくて、ゲーム会社で働きだしたときは、ゲームデザイン至上主義というか、ゲームのシステムが面白ければ自動的に売れるものだと思っていました。しかし残念ながら現実はそうではありません。そもそも作品をお客様に気づいてもらい、さらに興味を引かせないといけないんです。
マーベラスがまだまだ小さな会社のころに東京ゲームショウに出展したんですが、当時は社員が試遊台の横に立って説明していたんです。
自分が関ったゲームはもちろん、他のチームが開発したゲームも説明していました。来場者は興味がなければ素通りしますし、興味を持って並んでる人も、ちょっとでもつまらないと思ったら30秒も遊んでくれません。
そのときに気づいたのが、説明するにしても、ゲームの内容や、面白さをわかりやすく伝えられるキーワードをあらかじめ準備しないと簡単にお客様の興味は離れてしまう、ということでした。
たとえば『勇者30』でいうと、「30秒でクリアするRPGです。」と説明すると、「それはどういうことですか」とか、会話や質問が始まるんです。
面白いゲームを作る、というところは変わりませんが、そのゲームの魅力を瞬間的に伝えられるか、どれだけ目を引かせられるかということを重視し、意識が変わっていったのは、プロデューサーをはじめてからですね。
・ほしいのは、アイデアを出せるセンス。
実は、クリエーターという言葉はあまり好きではありません。私自身、人から言われるならまだしも、自分では絶対に言いません。なぜなら、クリエーターというのは、なにか作りたいものややりたいことがあって、いろいろ生み出していった結果、初めてクリエーターと他人から呼ばれるものなのかなと思っているからです。
ですので、クリエーターを目指したいというより、なにを作りたいのか、なにを表現したいのかを自分の中で明確にして、それを生み出して、発信することが重要だと思います。
そのためには、とにかく作品を完成させる訓練をするべきだと思います。小説でいえば、1日1本ショートショートを書くとか、イラストで言えば、1日5体のキャラクターを作るとか、面白くなくても完成させることを繰り返していくことです。つまらなかったとしても頭からアイディアをひねり出すことをどんどんやるべきです。
どんなに会社が大きくても企画が不足している状況は常にあるので、そういったアイディアを出す力、センスは重要です。
プロになるには、身体と気持ちを強く持つことが大切です。とくに今の時代、人の目に触れさせる機会はたくさんありますが、さまざまな意見の中には、作品を全否定されることもあります。私も意見をもらうことがありますが、とかく作品の否定を自分への否定のように感じてしまいがちです。そこで潰れたり、気持ちが萎えたりしても、そこは気持ちを強く持って作品を作り続けてほしいですし、私もその意識を強く持っています。
ギリシャの実業家のアリストテレス・オナシスの言葉で「世界は自由だ、私は好きにやる。」という言葉があるんですが、限りある命なので、できたら作りたくないものに時間は割きたくありません。これからも全力で好きなことをやって、それをやれる環境を整えて、ゲームを作っていきたいと思います。